2016.10.04
NEW
秋山 勇
これまで国内出張と言えば、大阪本社日帰りや客先工場視察くらいの経験しかなかったが、9月に初めて沖縄に行く機会に恵まれた。目的は沖縄地区の当社お客様と当社グループ企業様との定期交流会で情勢ブリーフィングをさせて頂く為である。演目は、「グローバルなリスクの高まりに揺れる世界経済」、世界の経済情勢とリスクの所在を大きく俯瞰することが狙いであった。ところで私が国際情勢について話す際によく使う言葉がある。“どんな事でも、視点によって随分違った姿が見えてくる”。例えば中国。6%とか7%とかいう国全体の経済成長率を見ても彼の国の経済の実態は分からない。最近は「まだら模様」と評されるように、産業毎、業種毎、地毎域、それぞれに経済統計はバラバラである。要は全部を一括りに纏めて平均点を論じても本当の姿は見えてこない、どこに焦点を合わせて見るかによって全く別の顔が見える、ということだ。そんな私にとって今回の出張は正に目から鱗が落ちるような経験であった。夏休みムードもほぼ終わった9月中旬、それでも沖縄行きの飛行機ではスーツ姿は似合わない。自分は今何故ここにいるのか?と不思議な感覚に陥るほど、周囲はリゾート姿の観光客や、若者・女性の旅行客が多い。那覇空港に到着し、投宿先のホテルに着くと、こちらのロビーは海外からと思しき観光客で溢れていた。この人たちはどこから来たのだろう? ホテルの部屋からは港に停泊する大きなフェリーが見える。沖縄へのインバウンド客の多くは中国・台湾・韓国などから船でやってくるという。ただし地元の方によると、順調に伸びてきたインバウンド客の勢いも、このままでは伸び悩みかねないと心配する声が多い。沖縄に到着する国内旅行者達は、飛行機やフェリーで他の島に移動したり、レンタカーを使って沖縄本島の隅々に自ら流れていく。ところがレンタカーなどを使えない海外からの旅行者にとっては沖縄での陸上移動手段が不足、即ち港から観光スポットやショッピングに行く為の交通インフラが足りず、この不便を解消しないと、リピート客にも期待が持てないというのだ。
また、沖縄県が作成した企業誘致パンフレットを見せてもらい面白いことに気が付いた。この小冊子は、日本全体で人口減少と高齢化が進む中にあっても、沖縄は人口増加が続き、また年少人口の割合も日本一というような沖縄県の魅力をアピールしている。更にアジアの地図を手元に広げて真上から眺めると、中国13億人、アセアン6億人、日本1.3億人、合計20億人の巨大マーケットの中心に沖縄が位置していることが一目瞭然で、企業のグローバル化拠点として地理的優位であると強調しているのだ。若い社会、旺盛なインフラ需要、巨大マーケットへのアクセス等、これらは新興国市場の魅力を捉える視点と非常に似ているではないか。正直なところ、私が沖縄と聞いて反射的に思い浮かべるのは、日米や日中関係を考える上での文脈に必ず登場する複雑な国際政治の側面ばかりであった。勿論、美しい自然、世界に誇れる歴史・文化、ほっこり暖かくなる郷土料理や癒しの民謡・三線の音色、そして家族旅行の楽しい思い出も私にとって大切な沖縄だ。しかし仕事目線でもプライベートな目線でも、沖縄の経済やビジネスの魅力にフォーカスしたことがなかった。経済も社会も政治も、全て人は営みであり、人や街を見ずして政経情勢への理解が深まる訳がない。改めて自分への気づきを与えてくれた価値ある出張であった。
-------------------------------------------------------------本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。