2017.01.18

今年こそ期待される「デフレ脱却宣言」


主席研究員 武田 淳


今年も早半月が過ぎた。年初こそ暖かい日々が続き平穏な一年を期待させたが、「トランプ・ラリー」の終焉とともに訪れた最近の寒波は、それが幻想であることを想起させる。

既にドル円相場は昨年末の1ドル=117円台から112円台まで円高が進み、日経平均株価は大発会に付けた19,594円をピークに下落傾向となるなど、米国の大統領就任式を控えて金融市場の雲行きは怪しくなっている。確かに、トランプ新大統領が掲げる経済政策の内容は、実現可能性が疑問視されるという点でかなり乱暴であり、ツイッターによる意思表示を多用するなどコミュニケーション手法も批判されているが、デフレ脱却を目指す日本経済にとって、米国経済の成長加速期待を背景とするドル高円安、そして株価上昇は強力な援軍となるだけに、経済人でもあるトランプ新大統領に現実的で穏やかな政策運営を大いに期待したいところである。

いずれにしても、期待先行で進んだ円安株高の調整が限定的なものにとどまるのであれば、それでも昨年夏場の1ドル100円台、日経平均16,000円台前半に比べて、景気を押し上げるのに十分な円安株高水準である。そして、労働市場に目を転じれば、失業率の低下余地が乏しく完全雇用に近い状態のため、空前の人手不足の下で企業が雇用に前向きになれば即ち賃金が上昇する状況にある。そのため、今後は需給面からのデフレ圧力が解消に向かい、円安や資源価格の持ち直しも加わって、物価上昇率は年後半にかけて高まっていくとみるのが自然であろう。

ただ、どの程度まで物価上昇率が高まれば「デフレ脱却宣言」に踏み切れるのか、明確な目安はない。そもそも、「宣言」が必要となるのは政治の世界であり、金融市場はその兆候を察知したタイミングで金利上昇という形でデフレ脱却を織り込んでいくのだろう。まずは、そうした変化に対する備えを始める必要がある。そして、日本経済にとっての最優先課題は財政の健全化に移っていく。超低金利状態の終焉は金利負担の増大を意味し、それは財政破たんにつながる導火線に火を付けることである。導火線が燃え尽きる前に、財政収支の改善や政府債務の圧縮はもちろんのこと、経済成長による債務負担能力の向上を図ることが必須であり、少子高齢化で労働力の拡大余地が乏しい中、成長余地を高めるための生産性向上が不可欠となる。

今年は一年を通して米国新政権がもたらす暴風雨に悩まされることを覚悟しておく必要はあろうが、そうした中でも日本経済においては「デフレ脱却」という言葉が過去のものとなり、新たな課題の解決に向けて前進できる年となることを願いたい。


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