2019.05.21

新紙幣を飾る顔

社長 秋山勇

4月9日、新元号「令和」の決定を追いかけるように、日本では新紙幣の発行計画が発表され、2024年を目途に、1万円札、5千円札、千円札が刷新されることになった。2004年以来、約20年ぶりである。また5千円札の顔には女子教育の祖である津田梅子が選ばれた。日本銀行券での女性モデル採用は現在の樋口一葉に続き2番目となる。

米国でもドル紙幣刷新に向けた動きがある。しかし新札デザインは一筋縄では決まりそうもない。話しの発端は2016年、女性参政権実現から100周年の節目となる2020年に、女性をドル紙幣のモデルに起用しようという声が高まった。そして100ドルのような高額紙幣より一般市民に馴染の深い20ドル札の表面デザインに、黒人女性初となるハリエット・タブマンが選ばれた。タブマンは南北戦争前後に活躍した人権活動家で、自身も嘗て奴隷の身であった。

しかしトランプ大統領はお気に召さないようで、このアイデアは暫し棚上げとなり、20ドル札以外の紙幣刷新が先行する見込みである。何と言っても今の20ドル札を飾るのは、トランプ氏が敬愛するアンドリュー・ジャクソン第7代大統領である。貧しい家庭に育ったジャクソンは、東部の裕福な特権階級エリート達が牛耳っていた当時の政治を根底から変えたことで、国民の絶大な人気を集めた。一方ジャクソンは、大統領就任前の軍人時代、先住民族や黒人奴隷に対して大変苛烈な措置を取ったことでも知られる。

二人とも米国の歴史的ヒーローだが、経歴と実績は余りに対照的だ。オバマ政権が当初発表したデザイン案は、表面にタブマンを、裏面にジャクソンとホワイトハウスを配するものであった。これは分断する社会を繋ぎあわせようという意図があったのか、それとも融和の難しさを暗示したものだったのか。米国ではドル紙幣のデザインにも政治が色濃く影響する。

(2019年5月21日 金融ファクシミリ新聞「クローズアップ世界経済」掲載コラム)


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