2019.08.16

リアリティー番組『大統領誕生』

社長 秋山勇

4年に一度のオリンピックイヤーに行われる米国大統領選挙。来年11月の投票に向けた戦いはもう始まっている。共和党は現職トランプ大統領の本選出馬が確実視されるが、民主党は20人を超える候補者が党指名獲得を巡る過酷な耐久レースに臨む。

最初の関門となるテレビ討論会は候補者を公開で篩(ふるい)にかける場である。既に2回開催され、以前からの注目株カマラ・ハリス氏、黒人コーリー・ブッカー氏、同性愛者を自認するピート・ブティジェッジ氏などが一定の存在感をアピールした。バーニー・サンダース氏、エリザベス・ウォレン氏、ジョー・バイデン氏らのベテランは軸がぶれない姿勢を見せた。一方ベト・オルーク氏のように演説上手の前評判に反して魅力を出せなかった人もいたが、名前さえ覚えてもらえなかった候補者も多い。

テレビ討論会は「ダイヤの原石」のような将来が楽しみな候補者に出会える機会でもあると、大変期待をしていたが、凝った演出の娯楽番組に終始していたことを残念に感じた。候補者は、説明1分・反論30秒といったルールの下で、司会者が頻繁に発する「制限時間です」の警告に発言を遮られ、議論も中途半端であった。視聴者は長々とした議論に飽きるとチャンネルを換えてしまうため、テレビ局は候補者に短く強いメッセージを期待するが、これでは肝心の討論を薄っぺらなものにしかねない。

丁寧に時間をかけて話し合い、利害を調整しながら物事を決めるプロセスが民主的な政治には欠かせない。候補者が目指す政治を理解するには、説明する方も、される方も、手間と時間を惜しむ訳にはいかない。世界中が注目する米国最大の政治イベントを、視聴率ファーストのエンターテイメントショーではなく、ダイヤの原石同士が全力でぶつかりあうような迫力ある大統領誕生リアリティ番組として見てみたい。

(2019年8月13日 金融ファクシミリ新聞「クローズアップ世界経済」掲載コラム)
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