2026.09.28

ワシントンでの米中首脳会談—習近平氏が得たもの

研究顧問 高原 明生

日本時間の9月23日、中国の習近平国家主席は国賓訪問のため訪米した。訪問先の都市はワシントンのみで、ニューヨークには行かず、国連総会での一般討論演説は行わなかった。端的に言えば、習氏はグローバルな連帯よりも対米関係を重視したと言える。それは当然の選択だったと言えなくもない。習氏は、米国を中国の安全と発展にとって最大の脅威だと認識しているからだ。

しかし、わざわざワシントンまで行ったのだから、言わば隣町での国連総会に出てもよかったのではないか。そこで演説をすれば、間違いなく、グローバル・ガバナンスにおける中国のプレゼンスを印象付けることができただろうし、集っている各国首脳たちとの交流も可能だったはずだ。それにもかかわらず、習氏が3日間の首都滞在を終えてすぐに帰国の途に就いたのはなぜか。

いくつかの理由が考えられる。第一に、時差も考慮した健康への留意(習氏夫妻は晩餐会席上に自分の水筒を持ち込んだ)。第二に、次の党大会まで約一年、そして次の中央委員会総会がひと月後に迫ったこの時点で、長く国を留守にすることのマイナス(党務の司令塔である側近の蔡奇氏もいつものように同行していた)。そして第三には、5月のトランプ訪中の日程とのバランスだ。トランプ大統領も同じ日数で北京のみを訪問した。今回の日程の決定には米国側の意向も反映されたという報道もある。だが思い起こされるのは、前回の首脳会談に続き、米国との対等性をアピールするという習政権側の狙いだ。次の党大会は一年後に迫っている。対米関係を安定させ、米中が対等な立場にあることを示すことは重要な内政上の課題なのだ。米大統領に空港で出迎えてもらうという破格の待遇を得たことは、今回の訪米の最大の収穫だったと言ってもよいだろう。

言うまでもなく、世界にとっては、首脳会談が演出したイメージだけではなく、その内容が問題だ。全般に大見出しになるようなサプライズはなかったが、その中で目を引いたのはAIに関し、競争もするが、その悪用を防ぎ、且つ人類を害することがないように米中で協力もするという合意だ。米側の発表によれば、そのための対話の枠組みも設定された。もう一つ、世界に大きな影響を及ぼす経済貿易問題については、首脳会談前に開かれたベッセント財務長官と何立峰副首相の会談で、11月10日に期限が切れることになっていた関税と貿易規制に関する「休戦」状態を2か月延長することが合意された。問題解決は先送りされ、トランプ氏にすれば、中間選挙の前にビッグ・ディールを成立させることはできなかった。

安全保障および外交の面では、中国側の発表によれば、台湾、中東、ウクライナ、朝鮮半島などが取り上げられた。習氏は「台湾独立反対という立場の堅持」をトランプ氏に求めたというが、米国は台湾独立を支持しないという立場であり、それへの反対を言ったことはない。トランプ氏がどう切り返したかは不明だが、習氏は台湾に関する自分の認識を相手に擦り込もうとしているのだと思われる。

その気配は、習氏とトランプ氏の双方が、第二次世界大戦で肩を並べてともに戦った歴史に言及したことにも現れている。中国は現在、日本に軍国主義が広がっていると強く批判しているが、それは東アジアの戦後国際秩序を塗り替えようとする自分たちの実力行為を正当化する言説であるように聞こえる。トランプ氏の側は深く考えることなく、中国側に調子を合わせたのだろう。対中関係に心を奪われ、同盟国の置かれた境遇に目を向ける余裕がないようだ。

両氏が11月の深圳でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)と12月のフロリダでの20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席することを確認し合ったことも興味深い。習氏にすれば、トランプ氏のあしらいに自信を持ったのだろう。できるだけ多くの会話を交わし、可能な限りの擦り込みを行うつもりのようだ。日本はどう対応するのがよいか、まずは米国の各界人士を含む、意志を共有する人々とのコミュニケーションを強化するほかはない。

PDFダウンロード

※ 本レポートに関するお問い合わせは、tokdp-komon@itochu.co.jpまでお願いします。

-------------------------------------------------------------

本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠総研が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。