2026.10.26

長引く不動産不況で強まる中国の「日本化」懸念

チーフエコノミスト 武田淳

先週、発表された中国の今年7~9月期のGDP成長率は、事前の市場予想を若干上回る前年同期比+4.5%となり、政府目標(4.5~5.0%)をかろうじてクリア、2四半期連続の目標未達は免れた。ただ、消費の成長率への寄与は低水準でさらに低下、投資(資本形成)の寄与は大きく落ち込み、輸出の拡大のみが成長を支える姿が一層鮮明になった。なかでも、GDPの5.4%(2025年)を占める不動産投資が前年同期から約3割も減少、GDP成長率を1.6%ポイント押し下げた計算となり、不動産不況が中国経済の大きな重石となっていることが確認された。

間接的な影響を加えると、不動産不況の負のインパクトはさらに大きい。代表的なものは不動産価格の下落による「逆資産効果」である。中国では都市部世帯の7割強が住宅を保有、あるいは保有資産の約7割が住宅だとされており、住宅価格の下落が消費行動を委縮させやすい。実際に、消費者マインドの影響を強く受ける消費性向は、コロナ感染拡大の影響による振幅を除けば下落傾向にあり、その主な背景は不動産価格の下落だと考えられる。最新となる4~6月期の実績は前年同期から1.1%ポイント低下しており、7~9月期も同様の落ち込みが続いたとすれば、消費の減少を通じてGDP成長率を0.4%ポイント程度押し下げたことになる。

住宅市場では価格の下落が続いている。中国70都市の住宅価格は平均で2021年夏から下落傾向が続いており、ピークから今年8月までに新築で14%、中古では24%も下落している。主因は過剰な在庫による需給調整の遅れである。当社試算によると、中国の住宅在庫の多くを占める建設中の在庫は、2022年以降、減少傾向にはある。ただ、それ以上に住宅販売が落ち込んでいるため、販売面積対比で上昇傾向にあり、2025年には5倍に達した。つまり、在庫は販売量の5年分にまで増加、過剰感はむしろ強まっている。

在庫水準が販売量の何倍であれば正常なのか明確な基準はないが、仮に政府が不動産融資の規制を強化する前、2019年頃の3倍弱を正常とした場合、2025年の販売量を維持できるとしても、在庫水準が正常化するまで2年程度かかる計算になる。ただ、実際の住宅販売は、8月時点で前年を1割強下回る水準に落ち込んでいるため、在庫調整により長い時間がかかりそうな状況にある。さらに言えば、適正水準が3倍弱よりも低い可能性もある。そのため、在庫調整には「少なくとも2~3年はかかる」とみておく必要があろう。

こうした状況から、中国の不動産不況が長期化し、日本が平成バブル崩壊後に経験した経済の長期低迷、すなわち「日本化」するのではないか、という見方が根強い。最近では、今月21日に英Financial Timesが”Two Asian giants, one economic trap”という記事を配信している。アジアの二大国である日本と中国は、不動産バブル崩壊という「経済的な罠」によって共通の長期低迷に陥るのか、というような話である。

ただ、結論を先に言えば、中国はまだ「日本化」を回避できる状況にある。日本の平成バブルと、中国の今回の不動産バブルを比較すると、ともにバブル発生の原因は過剰な金融緩和で不動産向け融資が拡大したことであるが、バブル崩壊の原因は、日本がバブルを潰すために不動産向け融資を絞るだけでなく、急激な金融引き締めも行ったことに対して、中国はそこまで踏み込まず、むしろ金融緩和をした点が大きく異なる。

その結果、日本は経済全体が低迷し大量の不良債権が発生、その処理も遅れ、貸し渋りが広がったが、中国では今のところ貸し渋りの広がりは見られない。さらに、日本は多くの業界で過剰雇用が発生、賃下げにつながり、デフレに陥って金融政策が機能不全となったが、今の中国はディスインフレで踏みとどまっており、まだ金融緩和の余地を残している1。

両者の違いを踏まえると、中国経済が「日本化」し長期低迷に至るかどうかは、デフレに陥るかが重要となる。日本の場合は、賃金の下落がデフレを決定付けたが、中国では今のところ賃金は平均的には下がっていないようである。加えて、過剰生産によるデフレ圧力を輸出拡大で緩和できていることも大きいだろう。

逆の見方をすれば、中国企業が業績悪化に耐えかねて賃金を引き下げたり、欧米諸国が規制などを強化することで輸出が抑え込まれたりすれば、中国経済がデフレに陥り長期低迷に至る可能性が高まる、ということだろう。

9月の米中首脳会談では中国優勢の印象が多分にあったが、米国側は敢えて切り札を封印し、中間選挙前にレアアースの確保や農産品などの輸入拡大という実利を取りに行った可能性もある。米中首脳会談は11月のAPECや12月のG20サミットでも開催が予定されている。中国の「日本化」リスクを測る上でも、両国の貿易を巡る協議が注目される。

 

1 詳しくは、中央大学経済研究所研究叢書89 『地経学の時代と世界経済の構造変動―トランプ関税・技術覇権・中国経済の内生的制約―』 第8章「中国経済における『日本化』リスクの深層」参照。 https://www.chuo-u.ac.jp/research/institutes/economic/news/2026/10/88842/

-------------------------------------------------------------

本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠総研が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。