2021.01.05

停滞下で新年を迎えた世界経済

チーフエコノミスト 武田淳

新型コロナウィルスの感染第3波が世界中で猛威を振るっている。日本では新規感染者数が連日3,000人を超えて増加傾向にあるが、海外に目を転じると、世界最大の感染者を抱える米国では1日30万人前後へ、欧州では変異種が発見された英国で5万人を突破、アジアは相対的に少ないながらもインドネシアで7千人、マレーシアで2千人を超え、優等生だった韓国でも300人近い新規感染が確認されている。こうした感染拡大を受け、各国では行動制限(ロックダウン)の動きが広がり、経済活動を制約しつつある。

そのため、日本をはじめ多くの国で、景気停滞下での新年となり、世界経済の先行きは再び不透明感が強まっている。回復が先行していた中国ですら、主要輸出先である欧米やアジア主要国の経済が停滞すれば、スローダウンは免れないだろう。景気停滞の原因がコロナである以上、感染が収まり世界経済が再び回復に向かう時期を見通すことは困難であるが、感染拡大の背景に乾燥や気温低下に伴う換気不足があるのだとすれば、抜本的な状況改善は春まで待つしかなさそうである。

春になれば、救世主として期待されるワクチンが、まず米国において普及が進み、次いで欧州諸国などの先進国を中心に広がっていくと見込まれている。気温上昇など環境の改善にワクチンの普及が加われば、世界経済は年後半に向けて回復の動きを強めていく。こうしたシナリオが、現時点で多くの人が望む、それなりに確度の高い景気の見通しだと思う。実際にワクチンの接種はすでに欧米で始まっており、その量も先進国を中心に集団免疫の目安とされる人口の3分の2に行き渡るくらいは目途が付いていることを踏まえると、連日のように高値を更新する株価が示す通り、こうした見方が現実になる可能性が低いわけではないだろう。

しかしながら、こうした期待含みの予想は、結局のところワクチンの有効性に大きく依存している。確かに、ワクチンに関するこれまでの実証結果は95%以上の発症を抑えられたとされているが、あくまでも数万件程度のサンプルに基づくものであり、通常は副作用を含め百万件程度のサンプルが有効性の検証に必要とされる。つまり、ワクチンの有効性が想定したよりも低い、ないしは副作用のため使用できなくなる可能性を多分に残しているわけである。そのほか、超低温での保管が必要とされる点、数ヵ月で効果が消滅する可能性、原材料の不足を懸念する声があるなど、課題は多い。期待した通りワクチンが効果を発揮せず、今年も景気がストップ・アンド・ゴーを繰り返す状況を、世界経済のリスクシナリオとして想定しておく必要があろう。

また、仮に期待通り年後半に世界経済が回復に向かったとすれば、次の注目点は、緊急事態対応として無制限に膨らんだ各国政府の財政支出や中央銀行による資金供給を、どのような手順やペースで正常な状態にソフトランディングさせるかとなろう。リーマン・ショック後も各国政府・中銀は同様の課題に直面し、金融政策に関しては最初に出口戦略に着手した米国ですら、それまでに7年もの時間を要した。日本に至っては、リーマン・ショックからの出口に辿り着く前にコロナ・ショックに見舞われている。さほど慎重な対応が求められたのは、金融バブル崩壊により経済が再び谷底に引きずり落されることを避ける為に他ならない。しかも、現在の株価は、NYダウ平均、日経平均ともPER(株価収益率、予想ベース)が25倍を超え、目安となる5年平均の17倍を大きく上回っている。既に割高な株価が、超金融緩和が続く中で景気回復期待を材料に一段と上昇すれば、それはもはやバブルである。今、景気が停滞している間に割高な株価が調整されなければ、コロナを脱したとしても、金融政策の舵取り一つでバブルが崩壊し再び景気が大きく落ち込むリスクを高めることとなろう。

そのほか、米国は政権交代、中国は次期5ヵ年計画がスタート、両国の対立の行方を含めて不透明であり、地政学的にも中印国境やリビア内戦など各地で続く紛争、南シナ海・台湾海峡での緊張状態、タイの反政府デモなど、混乱の火種は多い(詳しくは、「2021年の世界経済見通し:ワクチン普及で年後半にかけて回復がメインシナリオながらリスク要因多数」https://www.itochu-research.com/ja/report/2020/1963/ 参照)。ワクチン効果で停滞を脱したとしても、アフターコロナの世界経済は、不安定さを残しながらの回復になるとみておいた方が良いだろう。

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