2025.10.29
9月調査の日銀短観は、業況判断DIが大企業の製造業で改善、非製造業は高水準で横ばいなど、総じて景気の良好さを示した。懸念されたトランプ関税の影響は鉄鋼など一部に限られ、設備投資計画も特に製造業で強気だった。
景気ウオッチャー調査は9月に小幅悪化したが改善傾向を維持。「家計動向関連」の内訳を見ると、「小売関連」は緩やかな改善傾向、「飲食関連」は8月までの急回復が反転、「サービス関連」は8月に大きく高めた水準を維持するなど業態によってまちまち。物価上昇や天候に対する消費者の反応が異なるためであり、景気動向が読み取り難い一因。
トランプ関税の影響を直接受ける対米輸出は、数量ベースで8月までの大幅減から9月はリバウンド。単価は下落しており、関税を値下げで吸収する動きを確認。9月16日から関税が引き下げられた自動車は9月も数量が落ち込んだが、10月以降は復調が見込まれるため、対米輸出全体でも今後は持ち直す見通し。
ただ、7~9月期の輸出は全体で前期比マイナスとなった可能性が高い。個人消費も自動車など耐久財の不振をサービスの底堅さでカバーできず、7~9月期は前期比で小幅マイナスだった模様。設備投資も一致指標の落ち込みや先行指標が示す減速の可能性を踏まえると、プラスとなっても小幅にとどまる見込み。輸入や民間在庫投資次第であるが、7~9月期の実質GDP成長率は前期比マイナスとなっても不思議ではない。
それでも、内閣府の推計で4~6月期にプラスに転じた需給ギャップは、大幅なマイナスとはならず、利上げを阻むほどデフレ懸念が強まることはないだろう。むしろ、基調的な物価上昇率は高まりつつある。
今月は利上げ見送りの可能性が高いという市場の予想コンセンサスは、不透明な部分を残すトランプ関税と、その影響もあり先行きが懸念される米国経済に加え、高市政権の誕生が背景であるが、前2者の影響が限定的だとすれば、最大の理由は新政権の経済政策への協調となる。それは日銀の独立性の放棄と受け止められる恐れがあるだけでなく、円安が加速し、新政権が打ち出す物価高対策の効果を削ぎ落とすことにもなりかねない。そうしたリスクにも十分な目配りが必要であろう。