2026.09.18

日本経済は金利上昇に耐えられるのか

チーフエコノミスト 武田淳

本日、日銀が政策金利を1.25%へ引き上げた。前回6月の利上げから3か月しか経っておらず、これまでの「概ね半年に1回」という市場コンセンサスとの比較では、利上げペースは加速したことになる。ただ、20243月にマイナス金利から0.1%へ引き上げて以降、2年半で5回目の利上げにつき、平均すると半年に1回ペースという見方もできる。20254月にトランプ相互関税が導入され、その影響を見極めるため1年近くも政策金利が据え置かれた(202510.5%→120.75%)分を取り戻したという解釈になる。その意味では、必ずしも利上げペースの加速と捉えるべきではないのかもしれない。

とはいえ、持続的な利上げの結果、長期金利(国債10年物利回り)は、20243月の0.7%程度から3%前後まで2%ポイント以上も上昇、特に今年に入ってからは、3月の2.2%程度から半年で0.8%ポイントもの急上昇である。こうした金利上昇の加速を受け、金利負担の増加や、それによる景気への悪影響を懸念する声が強まっている。

実際に、日銀が集計する銀行貸出の平均金利(貸出約定平均金利)を見ると、新規貸出においては政策金利がプラスに転じる直前20242月の0.68%(うち短期0.34%、長期0.98%)から、最新データとなる20267月に1.71%(短期1.39%、長期1.90%)へ上昇、既存貸出を含めたストック全体でも0.79%から1.48%へ2倍近くも上昇している。さらに、今回の利上げで一段と上昇するとみられ、金利負担は確実に増大する。ただ、利払い負担の増加は経済全体の一面に過ぎず、金利上昇の恩恵や、その背景にある経済情勢の影響も併せて考えないと、金利負担を過度に警戒し経済活動が必要以上に委縮してしまう恐れもあろう。

金利上昇の恩恵とは、言うまでもなく受取利息の増加である。当社の試算では、政策金利が来年度中に1.75%まで引き上げられた場合、家計部門の受取利息は、預貯金に限っても今年度、来年度とも2兆円程度増加する見込みである1。一方で、住宅ローンの支払い利息は、それぞれ1兆円前後の増加にとどまるとみられ、マクロ的に見れば差し引きではプラスとなる。ただし、住宅ローン負担の大きい2040代の現役世帯では金利負担増の方が大きく2、影響は資産や負債の状況によって大きく異なる点に留意が必要ではある。

そして、金利上昇の背景とは、物価の上昇である。かつてのデフレ期においては、コスト増を企業は価格転嫁できず、利益をすり減らすことで吸収、その煽りを受けて賃金は低下、雇用は縮小し、デフレの長期化につながった。ただ、最近はコスト増を販売価格に転嫁する動きが広がっている。その結果、物価上昇に応じて企業の売上は増加、利益はむしろ拡大し、利払い増の吸収が可能となる。さらには、賃上げや雇用拡大の余地もでき、賃金は物価上昇分を割り引いた実質でも最近は増加に転じている。つまり、金利負担の増加は、物価上昇を起点とする企業利益の拡大や家計の実質所得の増加によって概ね相殺可能だということである。

金利上昇はまた、企業の設備投資や家計の住宅投資の下押し圧力となる。しかしながら、金利の上昇が景気の拡大によってもたらされている限り、企業の期待成長は高まり、業績は拡大、いずれも設備投資を押し上げる方向に働く。住宅投資については、家計所得の増加を考慮してもマイナスとなる可能性が高いが、個人消費は所得増により拡大が見込まれ、家計部門の需要の落ち込みを埋め合わせることとなろう。

そもそも、日本の中立金利は1%台後半との見方が大勢である。それが正しければ、今回の引き上げ後の政策金利1.25%は未だ緩和的な水準であり、景気の拡大ペースを抑えることはあっても、景気減速に至るほどでなない。

むしろ、懸念すべきは利上げの遅れであろう。緩慢な金利上昇は国内の需給ひっ迫に起因するインフレリスクを高めるだけでなく、円安を通じた物価上昇圧力にもなりかねない。先に見たように日銀が金利の正常化を進める間、米国の政策金利(FFレート目標上限)は5.5%から202512月にかけて3.75%まで引き下げられたが、今月16日に4%へ引き上げられ、追加利上げも視野に入っている。そのため、一時は4%割れまで低下していた長期金利が、今年に入り上昇ペースが加速、最近は5%前後となり、日米金利差は再び拡大しつつある。今後、日本の金利上昇が遅れれば日米の長期金利の差は一段と拡大、ようやく歯止めが掛かったかに見えた円安が再燃することにもなりかねない。

現在の1ドル=160円近いドル円相場の水準は、もはや円安で輸出数量が増えず、原油高で貿易赤字が拡大するばかりの日本経済にとっては、明らかなマイナスである。一方で、金利の上昇は、少なくとも中立金利を超えるまでは日本全体ではマイナスとは言えず、耐えられるはずである。むしろ、着実に金利の正常化を進め、行き過ぎた円安を抑えることの方が、持続的な安定成長を実現する近道であろう。

 

1 2026年826日付「日本経済情報20268月号 緩慢な金利上昇が高めるインフレリスク~改定見通し」参照。https://www.itochu-research.com/ja/report/2026/3357/

2 2026年92日付「日本経済:金利上昇による家計への影響の試算マクロでは収支改善も、負担は住宅ローン保有世帯に集中」参照。https://www.itochu-research.com/ja/report/2026/3367/

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